グローバル磁場トポロジーからみた磁気圏対流
太陽地球系物理学分野 准教授 渡辺正和
理想電磁流体力学では、プラズマと磁力線は一緒に運動する(磁場の凍結)と考えることができます。磁場の凍結が崩れるのが磁力線再結合(リコネクション)です。Dungey [1961]は惑星間空間磁場と地球磁場がリコネクションを起こし磁気圏対流が駆動されるというモデルを提唱しました。特に惑星間空間磁場が南向きの場合、リコネクションは磁気圏前面と磁気圏尾部で起こり、電離圏には2セルの対流が現れます。いわゆるDungeyサイクルです。磁場凍結の概念を用いれば、プラズマ対流は磁束循環とも言えます。Dungeyサイクルは直観的でかつ現象論をうまく説明でき、磁気圏物理のパラダイムになっています。皆さんも教科書でおなじみでしょう。しかしこのパラダイムも変革の時が来ているように思います。一つには太陽風の慣性が磁力線を引っ張って磁気圏・電離圏に対流を駆動するという描像(これは他研究者による後年の後付のほうが大きいのですが)は電磁流体力学的に必ずしも正しくないこと、一つにはDungeyサイクル以外の磁束循環が存在すること、が次第に明らかになってきたからです。ここで紹介するのは後者の研究です。
電磁流体数値シミュレーションで惑星間空間磁場が北向き時の磁気圏を作ってやると、磁気圏の磁場トポロジーは図1のようになります。ドーナツは開いた磁力線(open)と閉じた磁力線(closed)の境界を、円筒は開いた磁力線(open)と惑星間空間磁力線(IMF)の境界を表します。地球はドーナツの内部にあります。矢印は境界面上の磁力線を表しています。少し複雑に見えますが、実は双極子磁場と一様磁場を重ね合わせたものとトポロジー的には同じです。この構造は2個の磁気中性点と2本のセパレータ(separator)から成るので、仮にnull-separator構造と呼ぶことにしましょう。Null-separator構造を保ったまま起こり得るリコネクションは全部で16通りありますが、そのトポロジー的性質から4種類にまとめることができます。それらの組合せから、様々な磁束循環が考えられます。
図1 惑星間空間磁場北向き時の磁気圏磁場トポロジー 表1 磁気圏におけるリコネクションの分類と磁束循環
表1はnull-separator構造における4種類のリコネクションを整理したものです。Open磁力線は、一端が北半球につながっているもの(north lobe, NL)と一端が南半球につながっているもの(south lobe, SL)の2種類あります。1と2はよく知られているDungeyのリコネクションでDungey型と呼びます。一方、3と4を交換型と呼ぶことにします。理由はリコネクションの前後で磁力線の役割が入れ替るからです。ここで注目していただきたいのは*印をつけた3です。これはopen磁力線とclosed磁力線のリコネクションで、太陽物理では一般的ですが、磁気圏物理でその存在が指摘されたのはごく最近です[Tanaka, 1999]。Openとclosedのリコネクションを考えることで、磁束循環のパターンが一挙に増えます。1と2が組み合さるのが上述のDungeyサイクルですが、赤字で強調した「交換サイクル」(3と4の組み合わせ)や「混交サイクル」(1, 2, 及び3の組み合わせ)のような、これまで全く考慮されなかった磁束循環が理論的に予想されます。このような磁束循環の検証を観測や電磁流体数値シミュレーションで行っています。