九州大学理学部地球惑星科学科 九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻 太陽地球系物理学研究分野

講義案内

はじめに

 太陽地球系物理学分野の教員が(と言っても1名しかいませんが)、毎年担当している専門教育科目を紹介します。詳しい情報は理学研究院・理学部のシラバスを見てください。ここで紹介していない講義もあります。完全なリストは九大の研究者情報を参照してください。

宇宙電磁力学(大学院)

 地磁気変動やオーロラ発光などは、宇宙で起こる電磁現象の地上への反映です。従来、これらの現象は形態学として扱われることが多かったのですが、現代ではなぜそのような現象が発生するかを、物理学の基礎方程式から演繹的に理解することが求められています。そのような理解を進めるため、この講義ではプラズマの基礎力学から宇宙の現象を記述する方法の基礎を学習し、実際の現象に適用する方法を身につけてもらいます。
 講義は前半を太陽地球系物理学分野の教員(渡辺)が、後半を宇宙地球電磁気学分野の教員(吉川)が担当します。渡辺が担当する前半部分では、太陽風―磁気圏―電離圏相互作用系における電磁現象を理解するため、その基礎となる電磁流体力学とその限界について解説します。以下に内容を列挙します。
(1) プラズマの運動論的記述・流体的記述
(2) 一般化されたオームの法則
(3) 一様媒質中の電磁流体波動
(4) 電磁流体中の不連続・衝撃波
(5) 電磁流体におけるRayleigh-Taylor不安定
上記項目からわかるように、かなり基礎的な内容です。電磁流体力学上級コースとも言えますが、宇宙空間現象との関連にも多く言及します。例えば、Rayleigh-Taylor不安定は赤道域の電離圏で発生するスプレッドFやプラズマバブルの原因だと考えられています。

電磁流体力学(学部3・4年生)

 プラズマは電気を通すガスで、磁場とも相互作用するため、集団としてのプラズマの運動は、流体的な力(圧力)に加え電磁気的な力(アンペール力)を受けて進みます。逆に流体の運動は電流や電荷を生み出し、電磁場に影響を与えるので、流体の運動と電磁場は一体として発展することになります。このような電磁流体を扱う研究分野は地球惑星科学に限らず広く見られます。この講義では、理学部物理学科と地球惑星科学科の学生を対象に、電磁流体力学の基礎事項について解説します。以下に内容を列挙します。
(1)実用テンソル算法
(2)応力の概念と流れの記述法
(3)マクスウェル方程式とローレンツ変換
(4)移動現象における保存則
(5)磁化プラズマ中の構成方程式
(6)流体系の熱力学
(7)理想電磁流体力学の方程式系
(8)マクスウェル応力とポインティングベクトル
(9)磁力線の凍結
(10)電磁流体中の波動
(11)二流体方程式
(12)荷電粒子運動の案内中心近似
(13)案内中心ドリフトと流体ドリフトの関係
電磁流体の基礎的な考え方に重点を置き、応用についてはほとんど触れません。全体として数式を扱う部分が多くなっています。連続体力学では必須のテンソル解析からまず始めます。電磁気学や熱力学を参照しながら、電磁流体力学の基礎方程式を導出します。続いて、電磁流体特有の概念(磁力線の凍結、磁気圧、磁気張力など)や電磁流体近似が成立する条件について解説します。電磁流体近似の限界を知ることは現象への応用において重要です。また、宇宙空間プラズマへの応用を意識し、無衝突プラズマが連続体で扱える理由を考察します。最後に、視点を流体的記述から粒子的記述に移し、荷電粒子の運動から案内中心のドリフトを導きます。無衝突プラズマにおける電磁流体近似と荷電粒子運動の案内中心近似には類似点が多くあります。その例として、案内中心ドリフトと流体ドリフトの関係について解説します。

宙空物理学(学部3年生)

 地球大気とそれを取り巻く電離大気でおこる諸現象は、そのエネルギー源を太陽にもっています。磁気圏・電離圏・大気圏を含めた地球周辺空間は、電磁的な相互結合が強く、太陽表面で起こる現象の影響を強く受けるため、ジオスペース (geospace) と総称されています。「宙空」とはこのジオスペースを表す造語です。21世紀に入り人類の生活圏は宇宙空間に拡がりつつあります。この講義では、太陽地球系の宇宙空間にどの様な電磁プラズマ環境が存在しているのか、さらにそのシステム形成の巨視的な物理法則やその中に発生する様々な擾乱が宙空環境にどの様に作用を及ぼしているかなどを理解してもらいます。惑星間空間・磁気圏・電離圏・大気圏が結合した複合系の科学を概観し、新しい学問分野に対する理解・動機づけとなることを目的としています。
 講義は前半を太陽地球系物理学分野の教員(渡辺)が、後半を宇宙地球電磁気学分野の教員(吉川)が担当します。前半は概論と太陽から惑星間空間までの解説で、後半は磁気圏・電離圏の解説です。渡辺が担当する前半部分の目次を以下に示します。
1.宇宙環境科学概論
1.1. 宙空とは
1.2. 太陽から放出されるエネルギー
1.3. 電離圏
1.4. 磁気圏
1.5. 宙空環境変動
2. 太陽とその変動
2.1. 太陽のエネルギー源
2.2. 太陽の内部構造
2.3. 太陽大気の構造
2.4. 太陽の自転
2.5. 黒点と磁場
2.6. フレア
2.7. コロナ質量放出(CME)
3. 太陽風と惑星間空間磁場
3.1. Parkerの太陽風モデル
3.2. Parkerスパイラル
3.3. セクター構造
3.4. コロナホールと高速太陽風
3.5. 共回転相互作用領域(CIR)
3.6. 惑星間空間におけるコロナ質量放出(ICME)
3.7. 太陽風の3次元構造・太陽圏
太陽から地球圏へ向かうエネルギーの流れ(電磁波・プラズマ粒子・磁場)の視点から宙空環境変動を考察します。太陽地球系における巨視的現象論とその物理的解釈について述べますが、自然現象は複雑であるので、物理解釈が確立していないもの、全くないものも存在します。物理過程の詳細よりも現象論に重点を置き、宇宙環境科学の全体像を把握してもらうことを目標とする講義です。

地球惑星情報処理論(学部3年生)

 この講義は太陽地球系物理学と直接の関わりはありませんが、地球惑星科学のほとんどの分野において必須の、コンピュータによる情報処理に関する講義と演習です。将来どの研究分野に進んでも役立つよう、Microsoft社のExcelを用いて、統計データ解析の基礎を学びます。Microsoft社のExcelは世界的に最も普及しているプログラムの一つであり、統計分析以外の分野でも広く使われています。演習を通した体験学習で情報処理の基礎を習得することを目標にしています。以下に内容を示します。
(1) Excelによる表の作成
(2) Excelによる表計算
(3) Excelによるグラフの作成
(4) データの並へ替え・条件にあつたデータの抽出
(5) 度数分布表による一次元のデータの整理・分析
(6) 代表値・散らばりの尺度の計算
(7) 二次元のデータの整理・分析
(8) Visual Basicを用いたマクロとユーザー定義関数
(9) 確率分布と乱数
(10) 大数の法則と中心極限定理
(11) 正規母集団に関する推定と検定
(12) 回帰分析
前半は主にデータの整理分析を中心とした情報処理やExcel入門の講義・演習で楽しく過ごせますが、後半は数理統計学の基礎事項に関する講義・演習で少し難しくなります。