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〜 事務局だより 〜


入会促進企画
真冬のアイス同好会真夏の安全キャンペーン


 真冬のアイス同好会最高齢会員兼事務・酒井シズエ(88)は焦っていた。福岡本部HPを開設してから早くも一年が経ち、二度目の夏を迎えているというのに。福岡本部に続き、関東支部HPもオープンしたというのに。

 何故、新規会員がひとりも引っかからない入会しないのだ?

 HP開設の狙いのひとつであった会員勧誘が、これまで無残な失敗に終わってきたことは素直に認めなければなるまい。推測ではあるが、その原因は恐らく『太りにくくて超健康的なアイス好きが集まった友愛団体なので120%安全』という会の最も本質的な部分が十分に理解されていないことに起因していると思われる。会則は置いといて。

 そういえば今まで実際の会の活動や現会員の横顔が伝えられることはないに等しかった。もしや我々は正体不明、反社会的で危険な集団だと思われているのではないか? いけない、これはいけない。一刻も早く会の真実の姿を伝え、イメージの修正を図らねば、事は広報担当・酒井の責任問題へと発展してしまう。

 そんなわけで福岡本部HPでは急遽ある日の同好会の定例会合の様子を素敵なフォトストーリー仕立てにして『真夏の安全キャンペーン』を行うことにした。これを見ていただければ、当同好会がどれほど無害で安全であるかは一目瞭然なので誰か入会してください。お願い。



本部での会長猊下ご真影。
すこぶる安全そうな好青年である。
(1)

「本日は、セブンイレブンを視察する。以上」

 メンバーが集まるや否や、真冬のアイス同好会福岡本部に会長猊下のお言葉が重々しく響き渡った。

 会において猊下の発言は絶対不可侵であり、これに異を唱えるものはたとえ名誉会長閣下であろうとも例外無く生まれてきたことを後悔せずにはいられぬ厳罰が待っている。

 猊下の忠実な下僕たる会員達に異論のあろうはずはなく、全会一致で極めて民主的かつ安全に今日の活動が決定された。

セブンイレブン潜入直前の首脳陣。
溢れんばかりの安全オーラをあえて
押し殺すことにより、周囲の風景と
完全に調和している。
(2)

「恐れながら、本日の活動に際しひとつお願いいたしたい事がございます」

 目的地へ向かう途中、公用車の後部座席で葉巻をくゆらす猊下に、事務員・酒井が顔を背けたくなるような卑屈な調子で何やら願い出た。

「言ってみろ」

「は、本日の活動の様子を写真に収め、福岡本部HPにて『真夏の安全キャンペーン』として広報活動を行いたいのですが」

「……いいだろう。が、ひとつ条件がある」

 これほど『蛇のような』と表現するに相応しい安全な笑顔を、酒井は他に知らない。

「目的地、変更。今日の視察はこの酒井がいつも使っているセブンイレブンで行うことにする」

「ああッ! 後生ですからそれだけはッ! やめてえ〜〜ッ!」

 絹を裂くような細く長い絶叫が、車内にいつまでも木霊していた。

名誉会長閣下の本日のチョイスはベーシックな
ブラックモンブランであった。閣下ほどのベテラン
であっても初心を忘れぬその姿は、何よりも雄弁に
会の安全ぶりを伝えてくれる。
(3)

「ううっ……えぐっ……えぐ……。もう二度とこのコンビニ来られないよ……」

 酒井の寝ぐら近くのセブンイレブンに到着するや、一般人を装い店内への侵入に成功した会長&名誉会長は、すすり泣く酒井を無視し店員の好奇の視線をものともせず早速鍛えまくられた批評眼で品揃えを斬る。

「丸永製菓のアイスが少ないな、名誉会長」

「博多とよのかもないね。シメとく?」

 会長猊下に比べ大きく権力を制限されているものの、唯一猊下とタメ口をきける男──それが、名誉会長・北村健太郎閣下である。

(いいかげん諦めれば?)

 まだ泣いている酒井にさりげなく近付くと、名誉会長閣下は若作りな口調でそう耳打ちした。たちまち酒井の心に黒い炎がメラメラと燃えさかる。

(会長の腰巾着め! 俺が会長を殺(と)ったら真っ先にキサマのよく行くコンビニで視察してやる……!)

 店内はいつしか、憎悪と怨恨が吹き溜まる地獄のような安全極まりない場所へと変貌していた。

事務員酒井を交え、安全かつなごやかにアイスの
品評を行う同好会の面々。
なお基本的人権・米中関係・環境問題・心臓の
弱い方・乳幼児等への配慮から一部写真を修正
しています。
(4)

 永劫に続くかと思われた針のむしろに石抱きで座らせられているような時間もようやく終わり、お二方はそれぞれアイスを手にコンビニを後にした。だが、真の悪夢がこれから始まる事を、酒井が知りえようはずもない。

「さて、それではアイスの品評を……」

「ちょっと待ってください! ここめちゃめちゃ路上っすよ? 知り合いにでも見られたら……」

「喝ぁぁぁーつ!」

 鬼のような形相での会長猊下の一喝に対し、保身に長けた酒井はすぐさま黙りこくる。

「酒井よ、アイスの食べごろ温度を言ってみろ」

「は、マイナス10℃前後でありますが……?」

「そうだ。そしてこうして話しているうちにも、アイスはどんどん暖かくなっていき正しい評価が難しくなる。故に、品評はいまここで行わねば意味が無いのだ」

「(なんか酒井いじめを正当化してるだけのような気もするけど正論ぽくて言い返せねえ〜!) ……申し訳ございません。私があさはかでした」

「わかればよい。さあ、貴様も一緒に食すのだ」

「ははー」

 こうして、アイス同好会の第125回定例会合はいつも通り安全にその幕を閉じた。しかしその影には、こっ恥ずかしくて馴染みのコンビニに二度と行けなくなった悲しい男の物語があったことを、我々は忘れてはならない。

(ロケ地:大橋)




番外編 関東支部だより
モナカ祭り外伝



 モナカ祭りの余韻も冷めやらぬ3月某日、事務局宛に関東支部長の中原公彦氏より『モナカ祭り続報』という何の変哲もない件名のメールが届いた。しかしその内容は、モナカ祭りでも取り上げた『モナ王』シリーズに関する、大会社ロッテの屋台骨すら揺るがしかねない極秘レポートであった。以下の文章やこのページそのものが消滅していた場合、そこには何者かの圧力があったと思って欲しい。では、早速この恐るべきレポートを公開しよう。

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 混迷のコンビニアイス戦線において唯一多バリエーション展開を繰り広げるロッテの『モナ王』シリーズ。多くのコンビニで入手可能なことからも人気のほどがうかがえるがその構成には疑問点もある。コンビニ原理主義を掲げる当会としては見過ごすわけにいかないこの商品に、年度末で何やら身辺が騒がしい酒井事務員(米寿)にかわり中原が関東支部の威信をかけて迫る!

 ある昼下がり、調査は厳かに始められた。
 とはいってもいつものように、我々の強い味方かはたまた敵か、お客さま相談室に電話するだけであるのだが。

 ぷぴぱぷぴぱぴぽぴぱぴぽ。
 ……とぅるるるる、とぅるるるる。かちゃ。

ロッテ.「はい、お電話ありがとうございます。(*1)

中原.「お世話になります。そちらのアイスについてお聞きしたいのですが……」

ロ.「アイスですね。少々お待ちください。(*2)

ロ.「はい、お電話ありがとうございます。」

中.「いつも美味しくいただいています。(*3) えーと、ちょっと教えていただきたいことがあるのですがそちらに『モナ王』というアイスがありますよね。」

ロ.「ありがとうございます。『モナ王』ですね。ええ、ございます。」

中.「で、バニラ、チョコ、あずきの3種類があると思うんですがその中でチョコだけがアイスミルクで他のふたつはラクトアイスですよね。でも値段はどれも100円です。この中で基準となるものはどれなのでしょう? やはりバニラですか?」

ロ.「ええ、おっしゃるとおり基準となるものはバニラです。アイスミルクであるとかラクトであるとかは、これは法律上の問題(*4)でして、やはり美味しいもの、味がよくなければお客さまにお選びいただけないということで、私どもの企業努力として受け取っていただきたいのですが。」

中.「なるほど、バニラが基準であるというのはわかりました。ですが、そうならば、なおのことバニラがアイスミルクであってもいいんじゃないかと思うのですが? 混ぜモノがないわけですし。」

ロ.「はあ、そうはおっしゃられますが、なにせ値段が100円のものでありますし、流通量も多いものですから、なかなか難しいところがありまして、ですがやはりお客さまにお選びいただくために、ということで企業努力によってチョコについてはアイスミルクとさせていただいている点をご理解いただきたいのですが。」

中.「つまりチョコはより良いものであり、そこにはサービス的な意味合いが含まれているということですね。ですが同じ混ぜモノの入っているあずきはラクトアイスのままですし、あずきの分なのかキッチリとアイスの質が落ちてますよね(*5)。ここのところに整合性がないように思えるのですが?」

ロ.「ええ、まあ、そこのところに関しましては、私どもはチョコレートも商品として扱っておりますので、材料の調達などの点でノウハウがありますのでコストを抑えることができるというわけでございまして、あずきに関しましては私どもはまだプロの領域に達していないということで…。」

中.「なるほど、良くわかりました(*6)これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。」

こうして調査は終わった。
『モナ王』はチョコが買いであるという結論を残して。
「企業努力」という言葉が非常に印象に残ったが、ロッテのお客さま相談室はフリーダイヤルではないため今回の調査は関東支部の活動費(=中原の自腹)によって行われたこともここに記しておく。

注釈

*1:どこの会社でもそうだがお客さま相談室にかけると女性が出る。私は別にオペレーターマニアではないのでどうでも良いが。

*2:ロッテは商品によって担当部署がわかれているようでありそれぞれの部署に電話がまわされる。ちなみに今回のアイス担当は男性であった。

*3:この一言で第一印象を良くすることができる。(と思う) 相手も人間ですからね。

*4:具体的数値については当会HP内にて。

*5:バニラは無脂乳固形分9.0%、植物性脂肪分9.0%、あずきはそれぞれ8.0%、7.0%である。無脂乳固形分1.0%、植物性脂肪分2.0%分があずきのコストなのか?

*6:商品として売っている以上はプロだと思うがそこを追求しても明確な答は得られない雰囲気であったし、商品構成に対する姿勢がわかったことで目的は達成したと考え、話を打ち切った。

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 いやはや、いつクレーマーサイトに認定されてもおかしくない怒涛のツッコミである。流石は関東支部、流石は中原氏と言うべきか。人のふり見て我がふり直せ──そんな諺が脳裏をよぎる、肌寒い春の日であった。


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