セッション 惑星大気 報告書
参加者:
川原琢也, 藤原均, 小竹知紀, 篠崎憲二, 新原洋祐, 林真智, 松井宏晃(東北大)
村田功, 今村剛, 藤原正智, 大谷天志, 吉川一朗 (東大)
川上修司, 川口あかね (名大)
浅井佳子(名大I研)
鏡裕行(京大)
座長: 今村剛
テーマ: 統一的なテーマは設定しない。参加者の(なるべく)全員が惑星大気に関して何か 興味あるトピックを持ち寄って発表し、その内容について議論する、という方針を とった。発表されたトピックは次のとおりである。
- 「惑星の各ディメンション」(村田)
各惑星の大気の基本的性質。トリトンと地球の大気構造の類似。
- 「惑星大気の起源と進化」 (川原)
何を調べれば大気の進化過程がわかるのか。金星、火星のD/H比は。
PLANET-B/UVS吸収セルによる観測について。
- 「中層大気の大気波動 〜Review〜 」 (新原)
1年・半年・準2日波動、1日・半日潮汐、短周期重力波について。
潮汐による重力波の調節と中層大気への影響。
- 「惑星の(短波長)大気波動の観測例」 (今村)
金星、火星、海王星における大気波動の観測。
内部重力波の他の惑星大気中での大循環・物質輸送への影響は。
- 「火星オゾンのはなし」 (小竹)
探査機によるオゾン観測。火星下層大気における光化学反応系。
オゾン分布の季節変化・日変化の解釈。
- 「Ionospheric Structures and Phenomena of the Earth, Venus, and Mars」(藤原)
地球・金星・火星電離圏の鉛直構造の比較。
太陽活動度の変化に対する応答性の違いなど。
- 「人工衛星による惑星大気光の観測」 (篠崎)
金星、火星における紫外分光データの紹介。金星オーロラの観測。
PLANET-Bによる火星オーロラの発見への期待。
- 「火星には固有磁場はあるか?(C.T.Russel, Magnetic Fields of Terrestrial Planets, 1993)」 (吉川)
Phobos衛星の観測。固有磁場を持たないと、電離層に直接太陽風が当たって何が起こるか。
- 「計算機シミュレーションによる、回転球殻内での流体運動 (Zhang, 1987, 1988, 1989)」(松井)
電磁流体のシミュレーションで磁場成因を解明。
流れが作る磁場によるローレンツ力がセルの数に及ぼす影響。
- 「木星と土星の縞模様」 (大谷)
質量、密度、内部構造。内部熱流源の問題。縞模様の成因は。
木星と土星の大気化学における問題点。
- 「木星・大赤斑」 (林)
大赤斑についてわかっていること。大赤斑のモデリングの数々。
探査機ガリレオのプローブによる観測への期待。
- 「天王星」 (藤原)
大気組成、内部構造。自転軸、磁軸の異常な傾きについての諸説。
磁気圏の構造。黒斑の成因。
その分野に関する現状、コンセンサス:
- 各惑星の大気はそれぞれ固有の組成や運動を持っており、大気の物理化学の研究の進展のために はそれらを理解することが不可欠である。また地球大気を研究する際にも他の惑星大気中の現象は 非常に示唆に富む。
- 比較惑星学の立場から各惑星の大気について理解することは、惑星進化学、ひいては太陽系生成 論の視点から地球大気のついて理解することにもつながり、非常に有意義である。
- このような重要性にもかかわらず、惑星探査の歴史は浅く、他の惑星の大気についての理解は地 球大気のそれに比べれば圧倒的に貧弱なものである。特に外惑星の大気は、探査機が直接測定した ことがないために、ごく基本的なパラメータ(組成・大循環の様相など)でさえほとんどわかって いない。
- 地球大気の研究におけるのと同様、他の惑星の大気の研究においても計算機シミュレーションが 大きな役割を果たすようになりつつある。
その分野の研究が現在抱えている問題点、困難
- 地上からの光学観測で得られる情報は限られているので直接探査が不可欠であるにもかかわらず、 提案される多くの惑星探査計画のほとんどが金銭的問題から日の目を見ない。冷戦の終結や世界的 な不況のためにNASAも惑星探査に重きを置かなくなりつつあり、惑星科学をとりまく状況は苦しい ものになりつつある。
- 日本国内においては、惑星探査を行なっていないためにデータを使えず、惑星大気に興味を持っ ていても具体的に研究に結び付けるのが困難である。また、惑星大気を専門にしている現役の研究 者がいないために、惑星大気の研究を志す若手研究者を育てる土壌も無い。
将来への展望、提言
- 我々としては、ともかく探査機を各惑星に送り込むことが第一である。その実現のためには、一般 の人々にアピールするよう惑星科学を盛り上げていくことはもちろん、巨大な研究費をつぎ込むに 足る画期的な観測を提案しなければならない。
- 日本国内においては、多くの地球大気の研究者が他の惑星をも研究対象としうるような土壌をつく る努力をしていくべきである。折しも1998年にはPLANET-Bが火星を目指して打ち上げられて自前の データが手に入る予定であるし、またSL-9彗星の木星への衝突によって木星大気の内部構造の理解 が飛躍的に進もうとしてもいる。この機会をとらえて精力的に活動することなくしては、惑星科学 の将来 は厳しいものとなろう。
(文責・今村)