セッション 衝撃波 報告書


参加者:
    島津浩哲   (京大・理 D2、座長)
    坪内 健   (東大・理 D1、座長)
    中村雅夫   (名大・理 D1)
    家田章正   (京大・理 M2)
    矢島 彰   (京大・理 M1)

 宇宙空間には、衝撃波というプラズマの不連続面が様々な形で存在している。
 当セッションでは、「衝撃波」をキーワードに、宇宙空間での現象を、理論、観測、シミュレーションの各方面からながめていくことを目標に行われた。
 セッションは、各自が一つのテーマについて、40分の時間で、レビューや論文紹介を行い、それについて議論する、という形式で行った。
 各自の発表内容と時間は、以下の予定であった。

  9:30
  | 島津浩哲 地球、惑星、彗星のバウショック
 10:10
  | 矢島 彰 オーロラダブルレイヤーと静電衝撃波
 10:50
  | 中村雅夫 磁力線再結合とスローショック
 11:30

 14:30
  | 家田章正 衝撃波における粒子加速
 15:10
  | 坪内 健 collisionless shock の発生過程 &   | intermediate shock のレビュー
 15:50
  | まとめと討論
 16:30

 事前の準備として、各自に、レジュメを作成していただいた。OHPとホワイトボードが使えなかった会場では、レジュメは有効であった。
 また、各発表において資料としている論文を事前に公開してもらった。
その論文のアブストラクト程度に前もって目を通しておけば、当日の進行も楽になるのではと思ったからである。しかし、その論文は発表者以外には、必ずしも読まれていなかったと思われる。

 参加者が5人の小さなセッションであったが、当日は、1つのちゃぶだいをみんながとりかこみ、白熱した議論がくりひろげられた。 長いと思っていた一人当たり40分の時間もあっという間に過ぎ去った感じであった。
 また、予定にあった、まとめと討論の時間はとれなかった。

 衝撃波という、古典的なテーマのセッションであったが、衝撃波をキーワードに、多様な内容の話ができたことは驚きであった。と同時に、まだまだ解明されるべき点が数多く残っている、ということが、浮かびあがったのも大きな収穫であった。 参加者各自の積極的な準備、発表、そして、討論に感謝したい。

内容に関しては、以下の個人報告を参照されたい。

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個人報告 島津浩哲

発表内容 「地球、惑星、彗星のバウショック」

 上記の題のもと、以下の3つの文献のレビューなどをおこなう予定であったが、時間の都合で Leroy 他の論文のみとなった。

文献
Leroy, M. M., D. Winske, C. C. Goodrich, C. S. Wu, and K. Papadopoulos,
The structure of perpendicular bow shocks,
J. Geophys. Res., vol.87, pp.5081--5094 (1982)
Kan, J. R., M. E. Mandt, and L. H. Lyu,
Quasi-parallel collisionless shocks,
Space Sci. Rev., vol.57, pp.201--236 (1991)
Omidi, N., and D. Winske,
Steepening of kinetic magnetosonic waves into shocklets:
Simulations and consequences for planetary shocks and comets,
J. Geophys. Res., vol.95, pp.2281--2300 (1990)

 いずれも計算機による粒子シミュレーションが主な内容である。
 Leroy 他の論文は、ハイブリッドコードを使って、はじめて、衝撃波のシミュレーションをおこなったものである。衝撃波の構造や、その太陽風速度依存性を、衝撃波におけるイオンの加速や軌道から記述し、観測とよく合うことを示した。これにより、イオンの運動論効果の重要性とハイブリッドコードの有効性が認識され、今日に至っている。
 Kan 他の論文は、準平行衝撃波についてのレビューである。Leroy 他の論文は、準垂直衝撃波のシミュレーションであった。準平行衝撃波の運動論効果の研究は垂直の場合に比べ、遅れた。それは、準平行衝撃波は、安定に存在し得ないといわれていたからである。このレビューは、準平行衝撃波の構造等を運動論効果から述べたものである。平行衝撃波の再形成についてもふれてある。
 Omidi and Winske の論文は、彗星前面の衝撃波について述べたものである。太陽風と彗星起源の電離ガスとの相互作用によって生じた波(運動論的磁気音波)が急峻化し、小さな衝撃波の集まりになるというシミュレーションの結果を示している。

*今後に向けて

(理論とシミュレーション)
・ミクロ過程とマクロ過程とのかかわりなど
(観測)
・惑星、彗星、太陽系終端の衝撃波の直接観測(PLANET-B など)
(他分野とのかかわり)
・プラズマ物理学(基礎理論、地球物理学からの還元)
・天体物理学(超新星爆発、粒子加速)
・惑星科学(惑星、彗星の大気の散逸)
・航空力学、気体力学
10年前には、intermediate shock は存在しないといわれていたが、今日では、一応存在することになっている。10年前の常識が今日の非常識となるような、劇的でドラマチックな変化、発展、進歩を今後も期待したい。

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個人報告 坪内 健

発表内容 「Collisionless shock の発生過程
& Intermediate shock のレビュー」

1.Collisionless shock の発生過程...(レジュメの内容)
(参考論文:Biskamp, D., Nucl. Fusion, 13, (1973), 719--740.)

<はじめに>

 通常の(気体)衝撃波というのは、媒質中の粘性や熱伝導、電気伝導などを仲介とした粒子衝突の効果(エネルギー散逸機構)によって、エントロピーの増加する不連続性が現れ、密度や圧力といった状態量の変化が引き起こされている状態である。
 ところが我々の研究対象である「プラズマ」では、この衝撃波形成に必要である、粒子2体衝突が非常に起きにくい。つまり核融合(高温の維持)やスペース(大スケール....希薄)といった状況の下ではプラズマパラメーターの値が大きく、プラズマ振動に対応する程度の時間内では、クーロン衝突による平衡状態への緩和が生じないということである。
 しかし実際にはこの無衝突プラズマ中にも衝撃波が存在するということが、まずスペースプラズマの観測によって確認された。→地球のバウショック....衝撃波の形成は必ず energy dissipation process を伴うので、2体衝突に取って代わる機構を考察することがcollisionless shock を物理的に理解する上で重要である。一般に無衝突プラズマは熱平衡から大きくずれており、不安定性によって様々な turbulence を引き起こすために、 'effective' or 'anomalous' な輸送現象が発生し、これが dissipationに効いてくることになる。

<衝撃波形成の大まかなストーリー>

  1. 初期波形(イオン音波、磁気音波といったacoustic mode)のconvection。これ が有限振幅の場合、非線形性によって波形のsteepeningが起こる。
  2. steepening によって短波長のmodeが徐々に現れてくる。短波長のmodeには分散 性が現れるためにこれらの成分はそれぞれ異なった位相速度で伝わるようになる。
  3. この結果、wave trainが形成されて、これ以上のsteepeningを抑える。
  4. ここに”何らかの散逸過程”が加わることによって、wave trainがdampし、衝撃 波構造が作られていく。
<クーロン2体衝突に代わるエネルギー散逸過程の担い手>

 プラズマは非常に多くの波動や不安定性に満ちあふれた媒質であることが物理を考える上でのヒントとなる。不安定性から励起された波動と粒子との相互作用による現象(ランダウ減衰など)が effectiveなエネルギー散逸過程を担っているものと考えられる。
 ここでいう不安定性としては、マクロには有限振幅波の崩壊不安定性、ミクロにはイオン音波不安定性やイオンビームの2流体不安定性などが挙げられる。特にミクロな過程ではanomalous resistivity, viscosityの効果が現れ、散逸機構に寄与することになる。

<まとめ...collisionless shockに対する個人的見解>

 宇宙プラズマの物理過程を考察する際、衝撃波構造というのは単にある流れが障害物に当たった時に生ずる相互作用の様子であるというだけでなく、宇宙空間における特徴的なプラズマ領域の境界層を形成しているものであるという認識の下、このトピックスの研究は今後更に重要性が増すものと考えている。またプラズマ中の衝撃波は、プラズマの micro←→macro process の co-feedback機構の現れでもあり、理論・観測・シミュレーションいずれのアプローチからも興味深い問題が多く提供されるであろう。

2.Intermediate shockのレビュー

(参考資料文献を配る)
<理論→主としてMHD的記述>
<シミュレーション→Wuによる1次元の計算(MHD&ハイブリッド)>
<観測→ボイジャーによって発見された惑星間空間のIS(Chao et. al,1993)>

(内容のまとめ)

こちらの方は余るであろう発表時間を埋め合わせるために急きょこしらえた話だったが、結果的には予定時間を越えてしまうほどみんなの議論を聞くことができた。

3.今後に向けて

これから衝撃波の研究を進めていくに当たって、捉えておくべき視点として僕なりに次の点をとりあえず挙げておきたい。

(観測)

(理論)
(シミュレーション)  他にも多くの点があるし、人によっては上に挙げた項目が納得いかないということもあると思う。その点は他の参加者の意見も参考にしたい。しかしいずれにしても上に挙げた観測・理論・シミュレーション相互の協力がなければ研究の進歩は決して図れないといった認識を今改めて確認したい。

4.感想と反省

 レジュメを用意しておいたので、OHPやホワイトボードのなかった当日も思った以上にスムーズに進行することができたと思うが、やはりホワイトボード程度は欲しかった。テーマは夏の学校直前にようやく決定し、準備も突貫工事的なものであった点は否めない。それにみんな自分の研究で忙殺されているところに発表の依頼をするとあって、かなりの負担を強いているものと思われる。この点は今後の改善策として考えていかなければならない。まあ、テーマの決定をできる限り早く行うということが結局最善のものだとは思うが。

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個人報告 中村雅夫

発表内容 「磁力線再結合とスローショック」

 地球磁気圏は太陽風と呼ばれる太陽から吹いているプラズマによって吹き長し状に反太陽方向に引き延ばされされており、太陽風から流れ込んできた莫大なエネルギーをこの地球磁気圏尾部の磁場構造に貯め込んでいる。地球磁気圏尾部の磁場構造は主として磁気中性面(プラズマシート)とそれを挟む様に存在する南北で反平行磁場をなす領域(ローブ)から成っており、その結果、磁気中性面では西向きに電流がながれている。この地球磁気圏尾部に貯め込まれたエネルギーは間隔をおいて解放され、地球上ではオーロラや磁気嵐が、地球磁気圏尾部では高温のプラズマが塊(プラズモイド)となって反地球方向へ飛んで行くのが観測される。このエネルギーの解放は、磁力線再結合という物理過程により起こるものと考えられてる。さらに、太陽表面に見られる爆発的なエネルギーの解放過程の一つのフレアーも太陽磁場の再結合の結果だと考えられている。折しも当時、Yohkoh衛星が太陽表面をX線で、Gotail衛星が200Re(Re:地球半径)にも及ぶ地球磁気圏遠尾部を電磁場とプラズマ観測機により観測を行なっており、Yohkoh衛星は太陽フレアーの磁力線再結合の証拠となるようなX線映像を、Gotail衛星は磁力線再結合によって作られるプラズモイドやスローショックのデータを多数得ていた。
 そこで、「磁力線再結合とスローショック」をテーマとして
Vasyliunas,V.M.,
Theoritical Model of Magnetic Field Line Merging,1,
Rev.Geophys.space Phys., vol.13, pp303--338 (1975)
を資料論文としてDungeyに始まりSweet-Parkerへ、そしてPetschekやSonnerup、Yeh-Axfordへと続く磁力線再結合領域構造の物理的理解について、とくにPetschek以降信じられてきたスローショックを含んだ磁力線再結合構造についてのレビューを行なうつもりであったが、私(レビュー担当者)の勉強不足により内容的に全く不十分なレビューになり、セッション参加者に御迷惑をおかけしました。この場を借りて、お詫び申し上げます。

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個人報告 家田章正

発表内容 「衝撃波における粒子加速」

 様々な天体現象における粒子加速の機構として、衝撃波が注目されている。地球磁気圏尾部における粒子加速機構としては、磁力線再結合が最も有力視されているが、その領域 (diffusion region) は、いまだ発見されていないことにより、相対的に小さいと思われる。そのために、大量の粒子を加速するためには diffusion region に付随する slow mode shock における効率的な粒子加速が不可欠である。地球磁気圏尾部に広範囲に渡って slow mode shock が存在する ([Saito et al., 1995]) ことは、この考え方を支持する。
 衝撃波面の両側におけるプラズマと磁場の性質は、Rankine-Hugoniot relations を用いて積分的に調べられているが、波面内における性質は、特に slow mode shock については明らかにされていない。このセッションでは、衝撃波面内でのプラズマと磁場の性質に関する、fast mode shock についての研究を review を最初に行う。その後、特に cross shock potential に注目して、slow mode shock ではどのように性質が変わってくるかを議論した。その項目を以下に示す。

1 Obleque Shocks
* The Normal Incedence (NI) frame
* The Rankine-Hugoniot relations
* The Coplanarity Plane (B1, u1, B2, u2 は同一平面上。)

2 the coplanarity plane からの逸脱
* Charge Separation
* Cross Shock Potential

3 粒子加速
* Shock Drift Acceleration and Diffusive Acceleration
* Gradient B Drift and Curvature Drift

4 参考文献
* Saito, Y. et al., Slow Mode Shocks in the Magnetotail ,
J. Geophys. Res., in press, 1995
* Jones, F. C. , The Plasma Physics of Shock Acceleration ,
Space Sci. Rev., 58, 259, 1991
* Collisionless Shocks in the Helioshpere ,
Geophysical Monograph 35 , 1985
* Magnetospheric Plasma Physics ,
Center for Academic Publications Japan , 1982

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個人報告 矢島 彰

発表内容 「オーロラダブルレイヤーと静電衝撃波」

 ディスクリートオーロラの上空2000Kmから12000Kmの領域ではオーロラ粒子の加速領域が存在し、衛星観測からV型ポテンシャルの構造が推定されています。このポテンシャルの構造に関して数多くの文献が存在していますが、その中に electrostatic shock という概念をみたのがこのセッションに参加する動機となりました。このelectrostatic shockの定義が各文献で異なることによる混乱を経験している人の数は少なくないはずです。V型ポテンシャル構造の磁力線に垂直なポテンシャルのジャンプを electrostatic shock と呼ぶものもあれば、磁力線に平行であっても沿磁力線電流をともなっていないものは electrostatic shock とするものもあります。今回のセッションでは、ポテンシャル構造をshockと定義してよいものかどうかが私にとっての大きな問題でありました。結論から述べると、この現象をいわゆる流体のshockとは非常に異なった現象です。まずこの現象のスケールはデバイ長、プラズマ振動であり、磁気流体的な扱いのできないところです。electrostatic shock とは磁力線に垂直方向のbipolar的な電場構造および磁力線に平行な方向のdouble layer によるポテンシャル構造の2つであり、磁場構造とは無関係となっています。磁場の discontinuity などの概念とは異なった現象です。あえていうならばshock面に across する flow の存在することのみが shock like であるといえると思います。
 今回のセッションの自分の発表に関しては、この現象をs3-3衛星で観測したデータを中心に紹介しました。粒子のflux データからV型ポテンシャル構造内でのion、electronの速度分布関数について、ビームの出現頻度の高度依存性などからのアプローチを試みました。しかしながら非常に誤りの多いレジメを配布した上にまとまりのない話をしてしまいました。大変申し分けなく感じております。私自身データ解析の経験もなく、データ解析の論文もあまり触れたことがなかったので、このセッションをきっかけとしてデータ解析の論文にもきちんと読んでおきたいという個人的な目標があり、それは満たしたものの、うまくまとまらなかったので、shock の専門の方々には退屈な内容であったのではないかと思います。
 今後の展望についてですが、粒子加速機構としてMHD shockには自分もこれから勉強して行きたいと考えています。現在自分はオーロラ粒子加速領域をelectrostaticなものとして考えています。本質的にはそれでよいと思っていますが、そのモデルだけでは説明できない現象に対面したときに、electromagneticまたはMHDで扱うことのできる可能性は追及して見る必要もその際には生じてくると考えています。

 座長の島津さん、坪内さんをはじめ先輩方には大変お世話になりました。この場をかりてお礼申し上げます。