観測屋さんのセッション


参加者(左から)
  篠原 学   九大  D3(座長)
  尾花 由紀  九大  B4
  阿部 慎也  宇宙研 M1
  今吉 英司  京大  B4
  吉村 源   STE研 M1


記念写真が最後にあります。

 電磁圏の研究において、観測は必要不可欠のものである。各研究機関において、それぞれの研究対象に応じた様々な測定装置が製作され、使用されている。そうした、いわば現場の問題を持ち寄る場としてこのセッションを設けた。

 篠原は、九大で運用されている磁力計ネットワークのデータ記録装置についての説明を行った。この測定器は、マイクロコンピュータを組み込んでおり、磁力計の信号をデジタルに変換して、テープに記録する。現在、海外30ヶ所に設置され測定を行っている。
 広域観測において最も大切な項目の一つとして、観測時刻の同時性、すなわちシステムの時計の精度維持があげられる。観測データの時刻信頼性が高いことは、多点データにおいて現象解析のレベルを左右するものである。
 この測定器では、オメガ電波という船舶の位置測定用の電波を受信することで、世界中で全く同じ装置を使って自動的に時刻較正を行うことができるようになっている。その仕組み、開発の過程などの解説を行った。

 吉村は、STELが桜島で測定を行っているワンターンコイルのシステムについて説明を行った。桜島の半島部を横切る様にケーブルを通し、半島間の海面間の電位差を測定することで、桜島の地下構造についての情報を得ようとするものである。

 阿部は、飛翔体搭載用中性大気質量分析機の開発を行っている。測定対象は、地球、惑星の上層大気(熱圏)の中性大気の運動、温度、組成である。
 この領域は、中性粒子とプラズマとの、力学的、化学的な相互作用。太陽紫外線、オーロラジェット電流のジュール熱による組成、運動の変化。大気圏よりエスケープする中性粒子の脱出機構、の研究に注目されている。
 従来の方法(磁界偏向、四重極型)では、壁に吸着する酸素と被測定粒子との化学反応の問題が必ずしも解決されているとはいえず、そこで飛翔体速度を生かして、イオン化粒子の飛行時間と検出位置を併用することでその問題を克服する新しい方法の中性大気質量分析機を検討している。設計にあたりどのような精度が必要か、シュミレーションの結果と飛行時間の検討のための真空中での室内実験の結果などについて解説を行った。現在の問題点は速い時間で位置検出を2次元で行なわなければならないことである。

 今吉は、京大峰山観測室で使用されている誘導磁力計の較正システムの一部となる、微小電圧発生器およびoscillatorの開発についての説明を行った。
 微小電圧発生器は、8bitのデジタル信号をD/A変換することにより、-1.28mV〜+1.27mV (0.01mVstep)のアナログ信号に変え、オペアンプで1,0.1,0.01,0.001,0.0001,0.00001倍して出力する装置である。
 製作過程において、

などの問題点を生じているとのことである。
 そしてこの技術の延長として、低周波発振器の製作を行うとのことであった。

 尾花は、太陽電池によるバッテリー充電システムについて解説を行った。 汎世界的、特に赤道地帯を中心とした観測網の展開を行うためには、商用電源のない地域にも対応できる測定システムでなければならない。そのためには、太陽電池などを利用して独立電源装置を確立する必要がある。
 雨季があり、長時間悪天候が続く観測点。半年雨が降らず、連日強い日射を受ける続ける観測点。その中でバッテリーを効率良く充電し、性能を維持するためには、単に太陽電池をバッテリーを接続するだけではなく、様々な環境を想定した適切な充電コントロール装置を組み込まなければならない。バッテリーの状態によって急速充電をしたり、過充電を防ぐなどの処置の必要がある。
 バッテリーコントロールの方法と、それを実現するための回路について解説を行った。
 このシステムは、現在、ブラジル、北海道、ミクロネシアなどで実用実験が行われている。半年ないし一年間の動作状況を調べ、その結果を再び新システムにフィードバックさせながらの開発である。

 各所属の研究室のテーマによって、携わっている測定器の内容はかなり異なっているが、しかし、基本にあるのは電子回路を設計・製作するハードウェア技術とコンピューターを測定器に応用するソフトウェア技術であり、全く共通するものであった。
 参加者には、研究室に所属して初めて電気回路を始めた者も多く(私もそうであるが)、彼らはまさに手探りの奮闘を行っている。一方、学部時代に電気を専攻していた者もおり、彼らの知識は我々にとってはたいへん貴重な物と感じた。
 それぞれの持つ技術の蓄積と、現在の問題点とを照らし合わせることで、若手どうしで互いの問題解決を図る事も十分可能ではないだろうかと考えられる。あるいは、互いの知識を交換することにより技術レベルの向上を図ることもできるだろう。
 研究テーマ毎の学生間ネットワークとともに、観測グループとしての大きな学生間ネットワークを構築することをもっと考えてよいのではないかと思う。情報交換を進めるためには、まず、互いが何を行っているかを知ることが必要である。夏の学校という形で、一同に会し話し合いの場を持ったということで、ひとつの基礎を作ることができたと思われる。
 今回の夏の学校を考えると、研究テーマのセッションと時間帯が競合していたために、参加者はどちらかを選択せねばならず、そのためドクタークラスの参加者がなかったのだと思われる。今後は、研究テーマとは独立した形で、日程の空いた時間帯にセッションを開くなど、より集まりやすい方法を工夫してもよいのではないだろうか。


飛び出す記念写真(JPEG,40KB)
かなり苦しいけれど、立体写真です。 適当な大きさに拡大または縮小して眺めてください。

3ヵ月後の再開(JPEG,97kB)
名古屋の秋の学会での一こま。


みんな元気かー? 篠原@九大
shino@kyudai.kugi.kyoto-u.ac.jp